『着替えてくるから、適当に座って待ってて』
『うん』
部屋に入ると、さすがにスーツでいる必要もなく、事前に準備してあったのか、私服の束を持って、今入ってきた扉を出ていく。
折しも主のいない部屋に一人になり、入口で立ち尽くしたまま、改めてその部屋を見回した。
玄関から、マンションにしては幅の広めな廊下を抜け、木製枠のガラス扉の先に、拓真君が言ってた通り、ワンルームの一室。
ただしその広さは、通常のワンルームとは明らかに違っていた。
裕に30畳を超える広さのスペースに、スタイリッシュなカウンターキッチン。その前には、壁掛けのテレビをゆったり見れるソファの置かれた、リビングダイニング。
部屋の右端にある両面仕様の本棚で仕切られた先には、一人で寝るには大きすぎるほどのベットが置いてあるようだった。
男性にしては適度に整っている部屋に感心しつつ、そういえば職場の彼の机も比較的綺麗だったことを思い出した。
明るすぎない柔らかな照明の元、窓際まで進んで窓の外を望めば、マンションの中庭とその先にもう一棟のタワーマンション、右手には都会の夜景がかすかに見える。
『凄い…』
自分も2年ほど前から都内で独り暮らしを始めたけれど、私の給料では、到底こんなところには住めそうにない。



