『…ここに、住んでるの?』

そびえたつ高層マンションを、下から見上げて思わず絶句する。

着いた先は、いかにも見るからに高級そうな、タワーマンション。

『外観凄いけど、部屋はワンルームだから』

駐車場に車を停めると、住民専用の出入り口からエントランスに入る。

マンションの顔でもあるそこは、2階部分まである吹き抜けの広々とした空間に、ホテルのようなコンシェルジュまで備わってる。

『おかえりなさいませ』

品の良い初老の男性に声をかけられ、咄嗟に立ち止まり、深々と頭を下げ挨拶すると、前を歩く拓真君に笑われた。

向こうもルーティン的に声をかけているだけで、あまりかしこまってするものじゃないらしい。

エントランスの中央まで進み、あまりの非日常的な空間に、高い天井を見上げてはボー然と立ち尽くしていると、これもまた重厚そうなエレベーターの前に立つ拓真君に呼ばれ、慌ててそちらに向かった。

『ちょっと拓真君っ、なんかいろいろ凄いんですけど』
『そうかな?』
『もしかして、実は財閥の御曹司…とかじゃないよね?』
『ハハハ…さすがに出てくる単語が、バーチャルゲームっぽいな』
『だって、こんなとこ普通の人は住めないでしょ』
『残念ながら、うちはごく普通の家庭だよ』
『じゃあ、なんで…』
『さて…どうしてでしょう?』

ドキッ

見下ろすように、にやりと笑われ、また琉星の口真似で誤魔化されると、目の前のエレベーターが到着を知らせる短いメロディーを奏でる。