こんなの反則だわ。

この一週間で、初めて知る素顔の彼を知るたびに、どんどん惹かれていく自分に気づいたばかりなのに、まだこんな知らない表情があるなんて。

もう諦めなきゃいけないのに、神様は残酷だ。

堪らず視線を正面に戻すと、広い幹線道路の先、進行方向に高速道路の入り口の看板が見えてきた。

『あの、拓真君?…これって、どこに向かってるの…かな?』
『俺ん家だけど?』
『えっ!』
『ここからそう遠くはないんだけど、高速、乗った方が早いから』

てっきりこのまま、近くの駅にでも、送ってくれるものだとばかり思っていたので、驚いた。

『ちょ、ちょっと待って、家って、この時間から?』
『ああ、気にしないで大丈夫、マンションの一人暮らしだから、俺以外誰もいないし』
『そういう問題じゃ…』

全く、悪びれる様子もなく答える拓真君に、ハタと思い出す。

見た目のこの容姿と、拓真君の今日の名演技で、一瞬忘れかけていたけれど、彼は紛れもなくセクシャルマイノリティで、彼にとって私は”恋愛対象外”の女性。

普通ならこの時間に、女性が一人暮らしの男性の部屋に行くなど、いろいろ心の準備や覚悟も必要なのかもしれないけれど、拓真君の場合、その心配は不要。

本人も、単に友人を家に呼ぶ感覚なのかもしれない。

『ごめん、勝手すぎたかな?せっかくだし、今夜は、萌と軽く打ち上げしょうかと、準備しといたんだけど…』

本気で残念がる様子の拓真君に、心が動かされる。