無事に大芝居を終え、店の駐車場に停めてあった車に乗りこむと、拓真君は手慣れた感じでエンジンをかけ、緩やかに夜の街中を走り出した。

『ホント、遅くなってごめん…もっと早く来れるはずだったんだけど、先方がなかなか帰ってくれなくてね…』

運転をしながら、今日遅れたことを謝る、拓真君の横顔を見つめる。

その声音は、紛れもなく昨日まで一緒にいた”時枝拓真”に違いないのだけれど、それにしては外見の容姿が、あまりにも違い過ぎる。

『…』
『ん?…何?』
『本当に、拓真君…だよね?』

信号待ちで、停車したタイミングで、思い切って聞いてみる。

拓真君は、両腕でステアリングを抱えるようにしながら『そうだよ』と笑う。

『あんなに一緒にいたのに、忘れちゃった?』
『だ、だって、あまりにも違いすぎるでしょ?その髪型だって…』
『ああ、これ?』

そう言いながら、スッキリと切りそろえられた髪に、手を梳かす。

『わざわざ切る必要なんて無かったのに…』
『いや、切ってないよ?』
『え?』
『俺、元々がこの髪型なんだ…おっと、動くよ』

信号が、青に変わり、再び車がゆっくりと前進する。

ますます驚き、ついジロジロ見てしまうと、不意に伸びてきた左手で、軽く頭を小突かれ『恥ずかしいから、前向いてて』と拓真君。

慌てて前を向くも、触れられた髪の一部が温かく熱を持ち、右手でその場所に触れながらチラリと運転席を盗み見れば、本当に照れているような拓真君のその様子に、また胸の奥がキュンとなる。