…今、何か凄いことを言われたような…??

『さて、明日も仕事だし、そろそろ、行こうか?萌』

今度は皆にも聞こえるくらいの声音で、ハッキリと声に出す。

『う、うん、そ…だね』
『荷物、取っておいで』

今さっきの言葉の意味を考える前に、繋がれていた手が放たれ、壁沿いの椅子に置いてあった上着とバックを取りに向かう。

きっと、からかってるだけに決まってる。

それとも、仮初の恋人を演じる上での、単なる演出の一つなのか…。

そう思うも、打ち出した鼓動は、いっこうに収まる気配はない。

『ちょっと、萌』

途中、美園に呼び止められ、早口で『どういうことよ、コレ』と囁かれ、自分も困惑した眼差しで見返すと、直ぐに何かを察したのか、小さな溜息を吐かれた。

『全く、何て顔してんのよ』
『私も、何が何だか…』
『まぁいいわ、時枝君と帰るんでしょ?とにかく、よく話し合いなさい…で、その詳細は、明日必ず教えること、いいわね?』

そう言うと、すぐに解放され、拓真君の元に、送り戻される。

鋭い美園のことだから、私の様子で、私自身が自分のキャパシティーを超えていることが見て取れたのかもしれない。

今の自分の状況を考えると、美園の対応はありがたかった。

拓真君の元に戻る途中、チラリと見えた祐樹君は、すでに私のことなど眼中に無いようで、他の同級生と楽しそうに談笑していた。

彼にとっては、その程度のことなのかもしれない。

むしろ、こちらが気に病む必要は無さそうだったことに、ホッとした。

それから5分後。

打ち合わせに来ていた皆に挨拶し、高木君と徳永さんに見送られながら店を出る頃には、時刻は21時を過ぎようとしていた。