『高木にはやっぱり敵わないな、野球も…それに、女性を見る目も』
『女性?あ~徳永さんのこと?確かに彼女は、頭良いし綺麗だし性格も◎で、非の打ちどころないよね』
『…いや、琴子ちゃんのことじゃない』
『?』
『君のことだよ』

月明かりで、祐樹君が、妖艶に微笑んだのが見れた。

『な、何言って…』

言われ慣れてないことに動揺し、視線を逸らすと、何気なく距離を詰められた気配を感じて、こちらも一歩距離を置く。

『ところで…森野さんの彼、遅いね?いつ来るのかな』
『あ、えっと、まだ仕事が…』
『随分、余裕なんだね、俺だったら気が気じゃないけどな…こんな危険なとこに、恋人を行かせるなんて』
『危険って…』
『俺なら、絶対行かせない』

私の言葉を遮り、ピシャリと言い切った祐樹君を見れば、さっきとは明らかに違う熱の籠った目で見つめられ、その視線に縛られて、途端に動けなくなる。

『それに、本当にいるのかな?…その彼氏』

もう一度ストレートな質問を投げかけられ、咄嗟に嘘が出てこなくなった。

『ご、ごめん、私、そろそろ部屋、戻るね』

この場から逃げたくなり、手摺から手を離すと、直ぐに強い力で腕を取られた。

掴まれた腕は案外強く、簡単には振り払えない。

その感覚は、自社ビルの11階で初めて牧村さんに掴まれた時と同じで、ひどく不快で嫌な感じがした。

『まだ、質問に答えてないよ?森野さん』

”離して!”

そう言おうと、腕を掴む祐樹君を睨んだ時…