『凄いね、高木君』
『…ん?』
『きっと、野球続けたい気持ちもあっただろうけど、その気持ちより、徳永さんと一緒にいる未来を大事にしたんだね…それは、高木君にとっては、苦渋の選択だったんだろうけど』

夜空に浮かぶ月が、流れる雲に隠れ、急に夜の影が濃くなり、頬を掠める風がさっきより冷たく感じた。

『それに、徳永さん自身や、周りの人たちが、彼女のせいだなんて思わないように、ちゃんと次の目標まで立てて、それを実現しちゃうなんて…やっぱり凄いよね、高木君は』

同意を求めるように、隣に立つ祐樹君をみれば、少し驚いたような顔で、こちら見てる。

『…何?』
『いや…そういう考え方もあるんだなって、思ってさ』

フッと笑うと、柔らかな笑顔で続ける。

『正直、当時高木の決断に、いろいろ言う奴もいて…”ビビッて逃げた”とか”ただのヘタレだ”とかね…って、言ってる俺自身も、そう思ってた時もあったし。でも、言われてみたらそうだったのかもしれないな…その証拠に、琴子ちゃんを攻める奴もいなかったし、何よりも今、高木の選択が間違ってた、なんて言う奴は一人もいないからね』

静かに頷いた。

確かに、二人の人柄がわかるように、今日集まった誰もが、二人の結婚を心の底から祝っていた…それは、あの時の高木君の選択は間違っていなかった証になる。

不意に、また明るさが戻り、祐樹君と同時に空を見上げれば、薄雲からまた月が表れていた。

『…月って、こんなに明るいんだ』

独り言のようにつぶやいて、視線を戻すと、同じように月を見ていたとばかり思っていた祐樹君と、目が合う。