『まぁ外国でもあるまし、普通はしないだろうけど…例えばお互いお酒入ってて、何となく雰囲気に流されて…とかなら、無くもない?…かもね』
『……そういえば、大した量じゃないけど、私達お酒入ってたわ…』
『ちょっと、何でそうなるのよ?そんなレアなケースなんかじゃなくて、もっと単純に考えなさいよ』
『単純に?』
『普通に考えたら、時枝君にとって、あんたが友達以上の存在に思えたからでしょ?』
『ううん、それは絶対無いから』

即座にそう言い切ると、直ぐに怪訝な顔をされる。

『だから、何でそうハッキリ言い切れるのよ?…って、もしかして”男女の友情は絶対”なんて、言うんじゃないでしょうね』
『そういうわけじゃないけど…とにかく時枝君が私を好きになることは、絶対にありえないの』

さすがに拓真君が同性愛者だということは、美園に言わずにいたので、どうにも理解に苦しむ顔をされてしまう。

でも、美園の話で、少しだけ合点がいった気がした。

”萌、ごめん”

背中で聞いたあのセリフの意味は、おそらくあの時、あの場の雰囲気に流されて、キスしてしまったことへの謝罪。

お酒の力で、相手が女性だということまで、きっとうやむやになってしまっていたのかもしれない。

こちらが本気で受け取ってしまったら、きっと拓真君を困らせてしまう。

『…全く、あんたってば』

不意に、溜息まじりに、目の前の美園が、口を開く。