たった7日間で恋人になる方法

一週間前にはただの同僚だった”時枝君”が、今や周りから見たら”恋人”として認識されていることを実感して、どうにも恥ずかしくなる。

それと同時に、冷静なはずの自分が、いつの間にか甘い蜜壺に落ちそうになっていることに気が付く。

傍から見たら、手を繋ごうが繋がなかろうが、男女の組み合わせでこんな風に一緒にいたら、大概そう思われても、不思議なことじゃない。

…例え、一人は同性愛者で、一人はバーチャル恋愛ヲタクで…本当はただの何でもない”同僚”だとしても…。

フィッテングルームから出てきた拓真君は、結局これからの季節にもちょうど良いから…と、私が勧めたグレーの上着を持って、『買ってくる』とレジに向かう。

『あ、拓真君』
『ん?』
『それ、”あのお金”使ってね、私が最初に渡した…』
『別に、これくらい自分で出すよ』
『ううん、いいの。これも必要な経費だから』
『経費って…』
『お芝居用の衣装代は、”経費”でしょ』

わざと業務的に、あくまでも淡々とした口調で言うと、拓真君は小さな溜息を吐く。

『わかった…買ってくるから、店の入り口で待ってて』
『うん』

笑顔でその後ろ姿を見送りながら、胸の奥にチクリと痛みが走る。

本当のこと言えば、拓真君に言ったセリフは、危なげな自分への警告に近い。

充分わかっていることだけれど、ここは現実で、拓真君の言動や行動はすべて演技なのだということを、忘れないように…。