拓真君は公園のベンチから立ち上がると、当たり前のように手を差し伸べられ、つい自然にその手に触れると、引き起こされる。

『ありがと…』

ベンチから立つのに手を貸してくれただけの行為だったので、すぐ放されると思っていた手は何故かそのまま握られ、見上げると、拓真君がまた考えこんでいる。

『あの…拓真くん?』
『明日だけど…』
『明日…』
『デートしてみないか?模擬デート』
『模擬デート?』
『明後日の本番に備えて、一日だけ恋人になりきってみてはどうだろう?』

それは、実は最初の計画から、当日のシュミレーションとして私も考えてはいたことだったけれど、あまりにも拓真君に申し訳なさ過ぎて、口には出来なかったことだった。

『私はいいけど、拓真君は…いいの?』
『僕?』
『だって、拓真君はちゃんと現実に好きな人いるのに…そこまでしてもらうのは…』
『ああ…それなら、気にしなくていい。今はまだ、僕の好きな人は僕のことなんか眼中にないだろうからね…』

意中の男性を思い浮かべているのか、少し表情が和らぎ、その人を想う気持ちが表情にあふれているようだった。

『でも諦めたわけじゃないから…この件が片付いたら、少し動いてみようって思ってるし』
『そうなんだ』
『萌さんも…応援してくれるよね?』
『もちろん』

笑顔で頷くも、拓真君の想い人を想像して、胸の奥がチクリと痛む。