『萌…また時枝君、見てない?』
『美園』

いつの間にいたのか、腕を組んで入口に立っていた美園に、指摘される。

いつから見られていたのか分からないけれど、拓真君を目で追っていたのは事実で、否定をするのは返って怪しく、その時自分が思っていたことを、正直に口にした。

『いや、なんかさ、時枝君って、いつも叱られてばっかりだなって…』
『本当に…それだけの理由?』
『他に何があるっていうのよ』

自分にしては案外うまくつけた嘘に、美園もすんなり騙されてくれて『それもそうか』と、肩を竦め、中に入ってくる。

『確かに、中途で入ってきた割には、彼、使えないわよね』

自分専用のマグカップに、ドリップ式のコーヒーを注ぎながら、それこそ興味無さそうに話す。

『でもまぁ…さすがに、持ってるスキルは低いわけじゃ無さそうだけど…』
『?それ、どういう意味?』

美園は、今入れたばかりのコーヒーをそのままブラックで口にしながら、今は空席になっている拓真君のデスクに視線を向ける。

『時枝君って、やり忘れたり、提出期限を守れなかったりが多いけど、彼の出してきた成果物に関しては、いつも完璧だからね』
『そう…なんだ』
『案外、時枝君みたいのが、能ある鷹は…ってヤツかもね』

そういえば…と、昨日業務時間後に、自分の代わりに打ち込んでくれたデータの件を思い出す。