そう言うと、惚ける拓真君の手を、今度は私の方から、ギュッと握り返してみる。

『こういうの、本当はちょっと憧れてたし…』

言いながら、まだ身体の中にだいぶ残っている酔いの力を借りて、そのまま拓真君の方に寄りかかってみる。

一瞬、拓真君の身体が、ビクリと硬直した気がしたけれど、今更引くわけにはいかない。

相変わらず胸の鼓動はドキドキとうるさいけれど、触れた手と肩から、人の持つ温もりが伝わってきて、なんとも言えない心地良さを感じてしまう。

『緊張するけど、こういうのってやっぱり気持ちいいものなのね…ゲームの中じゃ想像しかできなかったけど』
『……』
『日曜日も、お酒の力を借りずにこんな風に、出来るかなぁ…』

あまりの気持ちよさに、また睡魔が襲ってくる。

拓真君に寄りかかったまま、大きな欠伸を一つ。

『…萌』
『ん?』
『眠いなら寝ていい』
『…でも』
『着いたら起こしてあげるから』

低く柔らか声が直ぐ近くから聞こえた。

車の静かな振動さえ、眠りを誘う麻薬のようで、もう逆らうことはできそうにない。

『うん、ありがと………琉星…』

微睡みの中で、私の口から漏れた言葉は、もう夢の中でつぶやいたセリフ。

本番の日曜まで、後二日を残した木曜日。

この日、かなりの距離が縮まったのだと、勝手に楽観視していた自分は、やっぱり浅はかだったのかもしれない。

この直後に、タクシーの後部座席で、拓真君の口から零れた小さな溜息は、私の耳には聞こえてはいなかった…。