「じゃあ人魚姫の主演は小野原ハルちゃんと、立石遊星くんで」
文化祭の劇の配役決め。なんて残酷なんだろうか。
声の出ない私が、人魚姫。好きな人が王子様役。なんてリアルで苦しい役なんだろう。
「じゃあこれでいいですか?」
よく通る委員長の声が私の様子を伺うように聞いてきた。
人魚姫は、バットエンドストーリー。私にぴったりだ。
うなづいた。
諦めるために回ってきた役なのかもしれない。だったらやってやる。
配役決めが終わったあと、役がある人、衣装舞台係、ストーリ制作に分かれて今後の計画を練った。
遊星と話すのは久しぶりだった。話すって言ったって、筆談だけど。私は1年生の頃からずっと遊星を好きだった。でも、私は忘れるためいろんな人と付き合ったりもした。でもやっぱり好きだった。遊星には、一年半付き合った彼女がいた。でも、もう別れてる。なのに、、遊星はまだその子のことが好きなんだ。頑張って振り向かせようとしても勇気が出ない。遊星の中の元カノの存在なんて消せなかった。声も出ない私にそんなこと出来たはずがなかった。なのに、今私と遊星は、主演になってしまった。しかも人魚姫。
「ねぇ?ハルちゃん大丈夫?」
よほど険しい顔してたのか、お姫様役のかれんちゃんに、声をかけられた。
よく見ると役のある人がみんな私に注目していた。(大丈夫だよ!)って言いたいから笑顔で答えた。
遊星がこっちみていたのに気づき、恥ずかしくなって目をそらしてしまった。
「練習する日にちを決めよ!」
みんながワイワイと日にちを決めていく、私は話せないから。近くに座って笑ってるだけ。でもたまに、
「この日空いてる?」
なんて、聞いてきてくれる子がいる。だからまた、笑ってうなづく。そんなことを繰り返してるうちに、練習する日は決め終わったみたい。練習期間は7月~9月まで。夏休みも学校に来て練習しなければならない。
みんなは、
「夏休みも、学校来るとかだりぃ」
なんて言ってたけど、私は嬉しかった。だって遊星に会えるから。
計画決めが終わった私たちはそれぞれ帰りの用意を始めた。ほかの人たちも終わったようでみんなが帰りの用意を始めた。
トントン
不意に肩を叩かれた。
「ハル!あんた人魚姫役大丈夫??」
同じクラスの友達の愛花が声をかけてくれた。私は愛花の手を取って手のひらに
(大丈夫だよ。)
って書いた。そしたら愛花は、
「遊星と、でしょ?」
って言った。、から私はさっきより強く書いた。
(大丈夫だよ。)
って。そしたら愛花は、
「そっか」
って言いながら、席に戻って言った。
愛花はわたしが遊星のこと好きな事を唯一知ってる友達だった。
机の中の教科書を全部入れ終わって、教室を出ようとした時
「ハル!」
愛しい人の声が私の名前を呼んだ。
パって振り向くと遊星がニコニコしながら立ってた。
「話しながら一緒に帰ろ。」
私は緊張を悟られないように小さくうなづいた。
靴を履きながら違うクラスの子から
「わ、美男美女じゃん」
「ほんとだ。」
なんて言われてたけど、そんなのも気にならないくらいに私は緊張してた。
校門を出たところで、遊星が、私の方を、見て
「人魚姫主役がんばろーな」
ってはにかむ笑顔で言うからちょっと目線をそらしてしまった。
そきたらまた遊星が
「な?」
って聞き返してくるから
(そうだね。)
って口パクで言ったの。そしたら、
「久しぶりに話してくれたな」
って嬉しそう。だから、私も少し照れちゃった。だって久しぶりに笑いかけてくれたから。
いつからかは、覚えてないけどわたしと遊星は、なぜか気まづくなった。多分遊星が私の気持ちに気づいたからかもしれない。
だから話したのもすごく久しぶりでちょっとこそばゆい気持ちになる。
「主役がんばろーな」
って白い歯を見せて笑う遊星を見たらまた好きが溢れてくる。
それからは特に会話という会話は無く、私は家に着いた。玄関の扉に手をかけたけど送ってもらったのにお礼を言わないのはさすがに失礼すぎるなって思ったから、急いで遊星を追いかけた。追いついて制服の裾をつかんだ

「うぉ!どした?」
びっくりした様子の遊星は私の顔を覗き込んでくる。私は遊星の手を取って
(ありがとう)
って書いた。そしたら遊星は、私の手に
(どういたしまして)
って書いた。そしたらにこって笑って帰っていった。
私は少し早くなった鼓動と、同じペースで家まで歩いた。
家について私は急いでベットに寝転がった。
それから枕に顔をうずめた。
遊星があんなに喋ってくれたのが嬉しかった。
(主役頑張ろ)
って思った。