「……ひよちゃんが笑った!」
千里さんはパァッと顔を輝かせて、食い入る私を見つめる。
「穴が開きそうです……」
というか、そこまで凝視することでもないでしょう。
「今日は、ひよちゃん笑顔記念日にしよう!」
「やめてください……」
「記念に写真撮っていい?」
「え?」
「記念品もほしいから髪の毛一本……」
「本当にやめてください!!」
髪の毛って……!!
さすがに冗談だよ、と笑う千里さんの目線はどう見ても私の髪の毛だから、多分冗談じゃなさそうだ。
「ごめんごめん」
全く悪びれてない千里さんに、呆れて、バカらしくてまた笑ってしまった。
久しぶりに、人との対話で笑った気がする。
どこかむず痒くて、くすぐったい気持ちだ。
「やっぱり写真とっとこうかな」
そう言って、千里さんがポケットから出した携帯にぶら下がった、クマのストラップが揺れた。
それを見て、千里さんが私に、『僕に執着してほしい』って言っていたことと、そして、それに応えることは一切できないということを思い出す。
それなのに、居心地のいい自分がいるのだ。


