千里さんは、その振動する携帯をポケットから取り出すと、眉をひそめた。
ちょっと、不機嫌そうだ。
「なに?
……うん、それで?
それ僕なしでなんとかならないの?
……最悪。今から行くから」
チッと舌打ちをした千里さんに、少し驚く。
この人のほわほわした、優しいところしか見てなかったから。
そんな不機嫌オーラも、目を疑うほど次の瞬間にはなくなっていて。
わたしに申し訳なさそうにする千里さんが目の前にいた。
「ごめんね、ひよちゃん。用事ができちゃって」
「別にいいですよ」
「せっかくのひよちゃんとの昼休みデート、邪魔されて本当にごめんね」
「デートじゃないです」
「この埋め合わせは必ず!」
「いやほんとうにいいです、早く行ってください」
本当にごめんねー! と最後の最後までなぜか謝られて、千里さんは資料室を出ていった。
あっちから誘って、半無理矢理連れてこられて、置いていかれた。
……別に、寂しい訳じゃないんだけど。


