歌が終わるとあたしは椅子から立ち上がり、子どもたちと一緒に観客席に向かって一礼した

たくさんの拍手を受け、顔を上げて気付く

口をパクパク動かしながら、あたしに向かって手を振るお隣さん



『・・・・?』



口の動きで何かを伝えているつもりのようだけど遠すぎてよくわからない

係のお母さん方が、ステージで劇の準備を始めたのが目に入り

あたしはお隣さんが何を伝えていたのかわからないまま、慌てて観客席に背を向けた



『お姫様は魔女の毒リンゴを食べて眠ってしまったのです』



伴奏の次のあたしの仕事は、劇のナレーション。
全員総出の白雪姫は練習を積んだだけあって今のところなかなかの上出来

白雪姫役の美優ちゃんが、舞台の中央の台の上でさながら女優のように“寝たふり”をするところに

舞台の端からつかつかと拓海くんが歩いてくる



『どうなさったのですか?』



よく通る声で、拓海くんが台本どおりのセリフを言う

毒リンゴをたべて眠ってしまったのだと小人役の陸くんが告げると、拓海くんは美優ちゃんの横たわる台へと近づいた



『姫にキスをすれば目覚めるのですね?』



もちろんふりだけど、これも台本どおり、拓海くんが横たわる美優ちゃんに顔を近づける