“♪〜〜♪〜〜”


勝手に彼女との回想に浸っていると、突然、枕元の携帯が大音量で鳴りだした

寝ぼけ眼でディスプレイに目をやり、思わずベッドに放り出す

ディスプレイに表示されていたのは、神谷家を牛耳る恐怖の嫁(兄嫁)泉

大事なデートの日に一体何の用が?と、この際ディスプレイは見なかったことにしてもう一度布団に潜り込む

泉に限っては本気で、さわらぬ神に祟り無し・・・だと思う

幸いな事に20コール程で音が止み、俺はほっと大きく息をつくとベッドから起き上がった

すると今度は、それを見ていたかのように家電が鳴りだす

見られているはずなんて絶対にないのに、こそこそとリビングの親機を見に行って・・・



“泉”



液晶に、存在感あふれる一文字・・・。

家電にまでかけてくるとは余程の執念を感じる

こんな時これ以上無視するのは危険だと、観念して俺は受話器を上げた




“あんた何時まで寝てんのよっ!”



耳をつんざくような大声に、俺は目一杯受話器を遠ざける

朝の6時台にいつまで寝てんのはねーだろと思うが、泉に口答えは危険だと踏みとどまった



『何か用?』



つとめて刺激せぬよう、シンプルかつ迅速に要件を訊くと



『用があるからかけたに決まってるじゃない』



ドスのきいた恐ろしい声で返事が返ってくる