暴君と魔女




驚いて伏せていた目蓋を開け手を外せば、視線こそは下に落ちている四季がそっと俺の胸にその手で触れる。


まるで壊れ物に触れるように恐る恐る触れ、徐々に密着度を増す手によって服に皺が広がっていく。


静かな暗がりの廊下に月明かりだけがはっきり入り込む。


窓側に背を向け立っていた俺の前に立つ四季は小さすぎて光を浴びる事がない。


そうか・・・、そういう関係に俺は四季を引きずりこもうとしているんだな。


自分の望む時間の結果に今更気がつき胸が苦しくなる。


いや、ずっと苦しい。


いっそ・・・完全なる解放をし離れてしまえば楽なんじゃないだろうか?



「・・・・っ、・・・嫌じゃ・・・ないです」



静かだった廊下と、無駄に言い訳で満ちていた頭に四季の声が反響した。


思考を見事凍結させた魔女の声に驚愕で反応を示すと、ようやく下げていた顔を上げ俺をまっすぐに見つめる姿。



「・・・初めてが・・・望様だなんて、・・贅沢すぎます、」


「・・・」


「緊張して・・・っ、心臓が速すぎて・・・胸が苦しくて痛い・・・」



そう、さっきの言葉に対して補足の様な言葉を告げ再びその顔を下げた四季。


視線では逃げ出したくせに俺の胸にある手はキュッと皺を明確にする様に軽く握った。


分からない。


理解が出来ない。


俺を愛せないと突き放しておきながら、それを全て覆す様な言動と行動。


ああ、そうか・・・、



「・・・【仕事】の上でのサービスか?」


「・・・・・はっ?」


「違うのか?」


「・・・すみません。意味が分からないので読んでも?」



意味が分からないのは・・・、


こっちの方だよ馬鹿女。


どこまでその声と言葉で俺を乱して翻弄するんだ。


俺を見上げた四季に不意に月明かりが当たってその表情が明確に映される。


耳まで赤い顔で流す程ではない涙でグレーを揺らす。


困惑するのはその表情に羞恥はあっても拒絶がない事。


分からない・・・・・が、


もう、どうでもいい。



「・・・読むな」



俺の胸にあった手を掴んで引き寄せ抱きしめ存在を確かめる。