暴君と魔女





「やっぱり・・・・解雇ですかね?」


「馬鹿・・・・・お前を解雇したら・・・・秋光が路頭に迷うだろ」


「じゃあ・・・せめて、退職金代わりに秋光だけは面倒見て下さいませ」



ふわり微笑み秋光を気遣う四季の表情に静まった筈の心臓が強く跳ねる。


そうか・・・・






「お前のそれが・・・・【愛】ってやつか?」





陳腐だと感じながらも【愛】を口にすれば、にっこりと笑った四季が躊躇いながら俺の手にその手を重ねた。




「早く人間に戻れるといいですねぇ」


「・・・・・・・犯すぞ馬鹿女」



いつもの様な会話の流れに胸が締め付けられる。


切なくて苦しくて心地いい。






お前のそれが愛というのなら・・・・。





それで俺の鎖も解いてくれよ。






自分の手に重なっていた四季の手を絡め取り、程よくその熱を感じるとグイッと引き寄せ近づいた顔を覗き込む。



「望様・・・・?」



困惑したグレーの目に俺の姿が映り込み、そしてすぐに明確な輪郭を映せない程距離を縮めた。


初めて・・・。


キスする事に緊張した。


触れる直前は早く早くと気が急いて、触れた直後はその感触やかかる息に心臓が早鐘を打つ。


何とも言えない馴染みのない感情に自分でもどう反応していいのか分からず、それでも本能的に唇を啄んでその存在を更に感じたいと引き寄せるように背中に手を回す。



「・・っ・・・・・」



グッと胸を押し返された反応に驚いて、離れた顔の距離でその表情を捉えた。


俺の眼に映るのはさっきの穏やかな姿の四季ではなく、示すそれは純粋なる困惑。


それでも今のキスを意味のない物と示したい一心からの不完全な笑みが俺の心にも波紋を広げる。



「・・・っ・・・四季」


「・・・望様・・は・・・・今は激しく動揺していますから・・・・・・」



そう言いながら今も俺の胸に手を当て距離を保ちながら視線を逃す四季。


そんな態度にざわめき冷めていく感情に怯える。