暴君と魔女






だけどすぐにそんな自分の失態の様な物に気づき視線を外すと、無意味に逆隣りに視線を移しそこにあった絵本を捉える。


ああ、早速買ったのかと数冊積み重なっているそれを眺め、目にとまった一冊に手を伸ばして膝に乗せた。



「あっ、それですよこの前言ってた・・・」


「呪いのかかった王子の話か・・・」



四季の語っていた話を思い出しながらそのページを捲りその内容を把握する。


ポピュラーなよくある話だと思いつつ、助け出されるのが男の方だという事に何だか印象を深め、呪いが解かれるページに魅入ってしまった。


そんな瞬間にフッと口元を掠めた感触に、視線を四季に移していく。


触れたのは切り終わったパンケーキの一切れで、フォークに刺されて差し出されているそれを躊躇いながらも口にする。


甘い・・・。



「・・・・お前、蜂蜜か何かかけたか?」


「はい、かけた方が美味しいですし・・・」


「甘すぎるからいらんと言ってるだろうが」


「でも、もうかけてしまいましたから」



にっこりと悪びれもせずにそう告げ皿から再び一切れ拾い上げると俺の口元に持ってくる目の前の魔女。


何だこれ・・・拷問か?


それでも初めて食べた時の衝撃を考えれば充分まともに食べ物だと判断すると、不服ながらもそれを飲みこみ絵本に意識を戻していく。



「どうですか?参考になりますか?」


「いや、童話の世界を参考にするほど俺はファンタジーを生きてない」



至って真顔でそれを言いきれば、何が可笑しかったのか勢いよく噴き出した四季が隣で体を震わせながらクスクスと笑ってその身を折った。


なんだか馬鹿にされている様なそれに舌打ちをすると、強引に額を掴んで顔を上げさせた。