暴君と魔女










扉に手をかけた瞬間から・・・・、いや、もっと言えば廊下を歩いている時からその匂いに敏感になる。


それでも意を決して扉を開くと一気に絡みついてくる甘い匂いに思わず口元を押さえてしまう。


そしてすぐに耳に入り込む魔女の声。



「おかえりなさいませ」


「・・・・・また・・・あれか」



嬉々とした表情で俺を出迎える四季にうんざりとしながら匂いの元に不満を漏らし中に入ると。


予想通りにテーブルに積み重なるパンケーキの山。


そう、山!


それをしばらく見つめ、非難するように四季に視線を移せば、さすがに本人も苦笑いを浮かべ言葉を濁しながら俺を見つめ返す。



「あ~・・・・、その・・分量を間違えました」


「何度も作っているくせに何で間違えるんだよ馬鹿女」


「でもでも、焼き上がりはとっても綺麗なんですよ。フワフワです」



自慢気に仕上がりをアピールする四季を適当にあしらい、いつも通りにソファーに突き進み身を沈める。


そこは四季のめげない性格。


しっかりとその手にパンケーキを皿に取り分け小走りに俺に近づいてくる。


それをまじまじと見つめ思ってしまったのは、ボールを咥え走ってくる犬の様な姿だという事。


だからか隣にちょこんと座り満面の笑みを浮かべたこいつに【お手】と言いたくなってしまう。


ただしそんな馬鹿げたことは本気ではしない。


チラリと皿に乗っているそれを確認し、小さく息を吐くと仕方ないと観念する。



「せめて食べやすいように切り分けておけ・・・・」


「はい、お坊ちゃまの望様の為に張り切って」


「・・・・殺すぞお前」


「そんな利益もない殺人は犯さないでしょう?望様なら」


「もうパンケーキを食べなくていいって利益は出そうだけどな」



忌々しくそう告げたのに向けられた四季はクスクスとおかしそうに笑いながらそれを切り分ける。


視線は切る方に注がれていて、伏せた目の睫毛の長さに思わず見惚れた。