暴君と魔女





「・・・・・あなたになりたいものですね」


「私はいつだってあなたの場所にすり替わりたいわよ」


「はい、どうぞ。・・・・そう言えたら・・・どれだけ俺は楽なんですかね?」



思わず表情を歪めてしまった。


それでも何とか保った口元の弧。


だけどそれが余計に惨めな姿に映したかもしれないと顔を軽く伏せてしまった。


沈黙が耳に痛く、どんどん体が重く感じていく。


ウェイトストーンの様に徐々に巻きついている鎖が重くなる。


苦しくて重くて・・・・なのに外し方が分からない。


そうして他者の身軽さに羨望した。


この目の前にいる女神の息子に。


「・・・・本気で、行動したいなら昊をこの場所に引き上げればいい」


「・・・・」


「俺と違って・・・あいつは自由で、望む物を手に入れて、自分の行動に迷いも躊躇いもない。あいつが本気になれば・・・・俺は敵う筈のない、父親と同じ弱者にすぎないんですよ」








『もっと・・・・したい様に遊べよ』





煩い・・・・黙れよ。


幼い姿で笑いかけてそれを言うあいつが脳裏に浮かぶ。


簡単に言うな。


いつだって自由なお前が言うな。


そう、思ったのに・・・まだ憎しみを知らない頃の俺は羨望し伸ばされた手を取りあいつと時間を共有したんだったな。


だけど一緒にいればいるほど楽しい気持より急速に強まる劣等感。


憧れるのに疎ましい。


傍にいたいのに並んでほしくない。


磁石の様だ・・・・。


よく似ていすぎる為の反発。


それでも・・・・・、



「できるなら・・・・・・俺が昊の立場に産まれたかった」



とうとう口にしてしまう胸の奥にしまいこんでいた感情。


それを一番知られたら厄介な女神の前で暴露して、これも全てこの女の作戦なのかと思ってしまうほど。


だって、昔からこの女神の前では俺は自分を強くは見せれないんだ。


自分の身に重苦しくかかる感情に完全に項垂れて足元を見つめる。


情けないと思われているのだろうか、それならそれでも・・・もうどうでもいいと思った瞬間。


ふわりと頭に置かれた手の感触にようやく視線を女神に戻す。