「聞いたわよ。嫁取りにようやく重い腰上げたそうね」
オフィスの人のデスクに腰をおろしパソコンを見つめている俺を覗き込んでくる女神をチラリと確認しすぐに画面へとそれを移した。
不満顔。
そんな風に取れた女神の表情に特に反応するでもなく、その事実を肯定していく。
「ええ、まぁ、俺も28ですから」
「でも今までは面倒だって突っぱねてたくせに」
「・・・・子作りには若い方が何かといいでしょう?男子が産まれなければ次の嫁を探さなきゃいけないんですから」
さらりと皮肉を零せば女神も皮肉に笑って窓の外に視線を移す。
そう絶対的な大道寺の古めかしい男尊女卑な掟。
能力の有無よりもその中心に立つ者は男であるべきだという愚かしい物。
それによってその権利を剥奪されている女神としては面白くない発言だろう。
明らかに不機嫌を表情に表している彼女がしばらく無言で窓の外を眺めているのを、仕事がはかどると満足して放っておく。
しばらくその場にキーボードの音だけがカチャカチャと響き、丁度ひと段落がつくEnterキーを叩いた瞬間にその言葉に攻撃された。
「例の世話焼きな彼女はどうするのよ?」
指先がタンッとキーを叩ききり、フッと視線を彼女に移せば特に嫌味な笑みもなく真顔でこちらを覗き込んでいて。
それに対してふぅっと息を吐いて椅子に身を預けると言葉を返す。
「四季は・・」
「へぇ、四季ちゃんって言うの。古風な名前ね」
うっかり名前を口にした事を後悔しながら女神を見つめる。
案の定俺の落ち度に満足したように微笑む姿に心で舌打ちすると、今弾かれた言葉は無視して先に問われた質問にのみ返事をしていく。
「あれは俺の利益を得るためだけの道具にすぎないですから」
「どんな利益か気になるものね」
「言ったらあなたは興味を持ちそうだから言いません」
「あら、じゃあ尚の事知りたくなっちゃう」
「・・・・とにかく、俺の人生とあいつは何の関わりもありませんから」
はっきりと言い切ると話は終わりだと体を起こす。
そうしてミスが無いか画面に集中を移そうとするのに、そう簡単に許してくれないのがこのお方。



