暴君と魔女






「条件だ・・・」


「・・・・・条件?」



ぴたりと動きを止め【条件】の響きとさすがに俺の性格を理解してきているらしい四季の警戒。


それに追い打ちをかけるようにニヤリと口の端を上げると、四季の顎をグイッと引きそのグレーを間近で覗き込んだ。



「キスしてみろよ」


「・・・・・・は?」


「お前からまともにキス出来るようなら今後もいくらでも無償で秋光の教養品は揃えてやるよ」



本当、傍から見ていたら意地の悪い条件だと思う。


だけど本気でする事を望んでいるわけでなくただ困った姿を見て楽しみたいだけで、絵本や学用品くらいは頼まれなくても用意するつもりだった。


だから今目の前で驚きに揺れるグレーの眼を見ているだけですでに満足し、それでももう一声意地悪をぶつけようかと声を響かせた。



「仕事や条件で動くんじゃなかったのか?」



そう口にすれば僅かにその頬を紅潮させ眉根を寄せた四季に完全に満たされ顎から手を外した。


フッと軽く笑い充分楽しんだと体を捻って要求に返事をするべく声を響かせ始める。


・・・・筈だった。



「じょーーーー」


ーーうだん。



冗談だと言おうとした言葉は途切れ、強引に振り向かされた顔に四季の顔が触れる。


驚いて軽く開いている唇に四季の息と唇の感触。


あまりに予想外の出来事にそれを要求したのは自分だという事を忘れ硬直し、その間に慣れないキスで俺の唇を啄んで離れた四季のそれ。


ゆっくり離れてその過程で透き通る様なグレーと視線が絡む。


そしてその表情が読みとれるほどの距離に保たれると、瞳を揺らしながら俺を見つめていた四季がフッと口の端を上げ挑む様な妖艶な笑みで、今しがた触れ合った唇から再度の要求。



「・・・・望様・・・・それでは、よしなに・・・」


「・・・・・・・わかった」



茫然とその返事しか返せなかった情けない俺。


魔女はグレーの眼に笑みを浮かべふわり惑わすように白い衣を空気に揺らしベッドから降りると歩き去る。


その後ろ姿をぼんやり見つめその姿が寝室から消えるとようやく回復し始めた思考。