暴君と魔女





「仕事だと思って耐えろ」


「む、無理です無理です」


「ムカつくな・・・、よし・・・絶対離さない」


「ええっ!?そ、そんなの・・・こうしてるだけで受胎しそうな・・・・」


「・・・するかよ馬鹿女。そんなこと言ったら世界人口どれだけ増えると思ってんだ」



呆れたおかげでようやく無意味に高まっていた熱も引き、パッと体を解放すれば限界とばかりにベッドに蹲り荒い呼吸をしている四季。


一体・・・・俺たちの関係とは何なんだろう。


この時初めてそう思った。


仕事の上での関係と割り切るには近くにいすぎている。


かといって恋人や体を重ねるような関係とも違う。


中途半端に近すぎる距離が落ち着かなくて、どちらかはっきりと区切りをつけたいのにその仕分けに踏ん切りがつかない。


そう、落ち着かないと言いながらその生温い関係にどこか浸っていたいと思ってるんだ。


深く息を吐く。


冷静に、平常に、間違った勢いの感情に流されないように・・・。



「ところで・・・俺に何か用だったのか?」



その質問をぶつければ思い出したように体を起こした四季が未だにその顔を赤くしたまま俺を捉え、そしてすぐに視線を逸らした。



「あ・・の、秋光に・・・絵本を買ってあげたいと思いまして・・・・」


「・・・ああ、それで・・給金を寄こせと訴えに来たわけか」


「そ、その言い方は少し・・・」


「間違ってないだろ?」


「・・はぁ、まぁ・・・」



視線を左右に泳がせながらさすがにその身を低く要求してきた事に溜め息をつき了承しようと口を開きかける。


だけどすぐに浮上する悪戯心。


さっきの反省もあっさりと忘れる俺は、どうやら四季を追い詰めることにハマったらしい。


開きかけていた口の端を緩く上げると、口の中で待機していた言葉を押しこめすぐに意地の悪い言葉に差し替える。



「給料の前払いはしていないんだが?そもそも、ここでの生活がそれに値してる」


「そ、それは重々承知してますし・・・ありがたいとも・・」


「まぁ・・・俺も鬼じゃない。未来ある子供に絵本くらい贈るのは苦でもない」



そう告げれば分かりやすく嬉々とした表情に切り替わる四季がその身を乗り出して、今にもその口から「ありがとうございます」と叫び出しそうな所に声を被せた。