暴君と魔女





「・・・・・俺の何が不服だよ?」



そう愚痴をついたところでこの女の耳には入りこんではいないのだろう。


ただ無防備にその寝姿を晒す四季に苛立ち、よく分からない葛藤をぶつけるように唇を重ねた。



「・・・・本当にどうかしている」



離した唇でそう零し、スッと離れると眠気を払うように片手で眼を擦って不動になる。


おかしい・・・・おかしいおかしいおかしい。


認めたくない。


それでもジワリジワリと背中から張り付いてくる様に迫って来るそれを振りきれない。


あの夢の様に・・・・・感情任せに四季を抱きたいという欲求。


それを行動するには状況は整いすぎていて、顔を覆っていた手をゆっくりと外すと眠っている四季を見つめてその手を伸ばす。


きっと、馬鹿みたいに俺を信用しているこの女。


だけどそんな男じゃないんだ俺は。


欲しいと思ったものは強引にでも捕らえて服従させる。


だから・・・今もそうしようと思えば出来る。


そんな事を思いながら四季の頬に指先で触れ、そのまま下に滑らすと自分がさっき残した紅い印でそれを止めた。



「・・・・・所有印・・・か」



キスマークと言うより自分には合っている言い回し。


それにフッと力なく笑った瞬間に、そこに触れていた手に重なってくる熱。


強く心臓が跳ね変な動悸が走ると同時に耳に入り込んでくる声の響き。



「望・・・・さま?」


「・・・・っ」


「すみません・・・眠って・・・・」



眼を擦りながらその身を起こし始めた四季に、焦って今の自分を読みとられないように苦し紛れに抱きしめる。


今は全てにおいてあのグレーアイに見つめられたくない。


激しく鳴り響く心音に、なだめようとして余計に焦る。


今俺はどんな顔をしている?


腕の中でただそうされるまま固まっている四季も音を発せず、静かに無意味に熱を伝えあう。


それでも先にその声を響かせたのは、



「の・・・望・・さま・・・」


「・・・・・何だ?」


「・・・・鼻血が出そうです」



その一言に自分の格好を思い出し、今まで四季が硬直していた理由を悟って苦笑いを浮かべる。