暴君と魔女




そうこの声だけは・・・・好ましいと認めよう。


セイレーンの健在。


ふらりと椅子から立ち上がり、無意識に寝室の開いている扉から中を覗く。


大きなベッドに寝かしつけられ、すでに目蓋を閉じている秋光とその横に添う四季の姿。


一つの絵画の様なそれをドア枠に寄りかかって見つめてしまう。


気がつけば自分の目蓋も降りていた。


その旋律が頭に響き、ふわりふわりと脳を侵食して自分の頑なな意思を奪っていく。




「・・さま・・・・」


「望様・・・」



呼ばれて我に返ると僅かにぼやけた目で俺を覗きこむ四季を捉えた。


しまった・・・・。


また・・・寝るところだった。


自分の失態に気がつき、まだまともでない目をはっきりさせようと目蓋を押さえる。


それでも一度舞い降りた眠気は早々に取れないらしい。


立ったまま格闘している俺に四季が小さく笑ったのを見逃さない。


それでも悪態をつけないほどの眠気に、四季の手がスッと俺の腕に絡まり柔らかく引いた。



「少し・・・ベッドでお眠りください」


「・・・戻るからいい」


「そんな足取りで戻れないでしょう?心配なさらなくてもほどほどに起こして差し上げますから」



宥めるように囁く四季の声の後に自分の体がベッドのスプリングとシーツの感触を得る。




「お休みなさいませ」




四季のその声を最後に、プツリと意識が途絶えてしまった。


セイレーンの歌は綺麗だが自分の身を滅ぼすとうっすらに思う。









目を開き暗闇を捉えたのはどれくらいしてだったか。


多分、あまり長くは寝ていなかったんだろう。


一瞬状況を思い出すように額に手を添え、すぐにさっきの虚ろな記憶を呼び覚ます。


ああ、四季の部屋だ。


そんな結論が出てゆっくりと体を起こせば、慣れてきた目が暗闇でもその部屋の様子を映し出す。


隣を見れば秋光があどけない顔で眠っていて、それを見て気がつかないうちに口の端が上がっていた。


だけど気がつかないまま次の違和感に意識が移り、その違和感の元を探ってベッドから降りる。


四季がいない。


時間的には夜に間違いないだろう。


もしかして俺がベッドを使ってしまったから外のソファーか何かで眠っているのだろうか?