暴君と魔女







子供ながらに気を使っているのかと再度口を開こうとした瞬間に響く秋光の声。



「・・・まま・・」



その瞬間に理解して口を閉ざす。


そうだな・・・、そうだよな。


四季の姿を鮮明に思い出させるこの無残ともいえる蜂蜜漬けのパンケーキ。


見るだけでその甘さに酔ってしまいそうなそれを一切れフォークに挿して口元に持っていく。


近づけるだけで香るその甘さに一瞬の躊躇いと苦笑い。


それでも口に放り込めば、


・・・・・・記憶鮮明。




『甘すぎますね・・・・』




そう言って苦笑いを浮かべた姿がはっきりと脳裏に浮かんで、クスリと笑うのに頬を伝う涙。



「馬鹿女・・・・」



呟きフォークを静かに皿に置くとさっきのまま不動になっている秋光の頭を撫でて顔を覗き込む。



「・・・・・食えないだろ。新しいの食べるか?」



そう告げると今度は頷き俺を見つめ返した姿にふわりと微笑む。


寂しさの象徴である甘ったるいそれを一緒に共感して、そして今はしばらくしまい込む。






大丈夫・・・・。



俺は・・・・大丈夫だと、



やっと少し気持ちが軽くなった。





同じ記憶を鮮明に共感できるこの存在がいるから。


また、無性に寂しく感じたら一緒にそれを共有できる存在がいるから。




今出来る愛し方は・・・・、


四季が守りたかったこの存在を愛おしみ育む事なんだな。




どこかそう結論出た瞬間に、


俺の依存も掻き消される。


そして思う。




2度目の奇跡。



それを起こしたのも・・・・四季の育んだ物だって事。









やはり・・・魔女だったな。











そんな・・・・記憶・・・・・。