しっかりとその存在を確かめ抱きしめ家に入るとせがむ分だけ紙飛行機を作り飛ばす。
それを追いかけ自ら飛ばし始めた頃にキッチンに立つとふと考え込んだ。
記憶には嫌でもしっかり焼きついていて、その分量も作り方も知識的には把握している。
それでも実際に作った事が無く上手く出来るだろうか?と眉根を寄せるも、行動あるのみと必要なものを揃え作り始める。
やってみるとなかなか面倒な作業だと思う。
だけども基本器用な自分に特に難しい事はなく、慣れない作業で時間は食うものの混ぜ合わせたものをフライパンに流すとそれを見つめた。
火加減やそれをかえすタイミングも知っている。
こうして横で見つめていたから。
程よく甘い香りが漂って、久しぶりのその匂いに懐かしさが募る。
「馬鹿な上に・・・嘘つきだな・・・・」
あの日、たくさん焼いておくと言った四季を思い出し苦笑いで不満を漏らすと、さっきまで飛行機で遊んでいた秋光が匂いに誘われ隣に立った。
その姿にチラリ視線を走らせ小さく笑う。
相変わらず無表情なのに・・・、俺でもその感情の変化は読めるようになってきたぞ。
子供らしく笑ったりはしない。
それでも目は馬鹿正直にその気持ちを表す秋光。
焼き上がっているそれを嬉々とした光を孕んで見つめる姿は子供そのもで。
その期待を削ぐ事なく綺麗に焼き上げたそれに適度な蜂蜜をかけテーブルに置いた。
「・・・・四季が作るものほど旨くないかもしれないからな」
一応、見よう見まねで作ったそれだと促して、前もって予防線を張って秋光に差し出すと。
まっすぐに俺を見つめた姿が丁寧に手を合わせる。
だけど次の瞬間の衝撃。
おもむろに手を伸ばし蜂蜜のポットを掴んだ秋光が、すでに滴っているそれに上乗せする。
デジャブ・・・・。
そう感じる見るからに甘そうなそれに苦笑いを浮かべると、秋光が躊躇いもなくそれを口に運んで口を動かす。
おいおい・・・、大丈夫か?
と思うのもつかの間、やや涙目の姿に噴き出して軽く頭を撫でると出してもいいと促した。
「そんなの食えないだろ。いいから出せ」
決して責めた様な口調ではなかった。
笑いながらそう告げたのに返されるのは首を横に振る反応。



