暴君と魔女






雑に車シートにその身を投げ込む。


座り直す間も惜しくエンジンをかけるとアクセルを踏み込みながらシートベルトを響かせた。


行きと同じように体にあるのは焦燥感。


だけどその思いは大きく異なり、行きに逃亡を図ったそれに帰りは求めてその速度を上げる。


珍しく冷え込んでいる外気を切ってもどかしい感情で車を住み慣れた女神の家に走らせれば、その姿を捉えて更に心臓が早鐘を打った。


でも、


敷地内に入った瞬間にそれを一気に止めに入る様な姿。


軽く血の気が引いた。


息を飲んで、思わず踏み込んだブレーキ。


そうしてまともに確認したのは玄関の段差にポツンと座って紙飛行機を手にしている小さな姿。


感情のままにエンジンがかかったまま車を乗り捨てると、今までの不安や葛藤なんか置き去りでその姿に駆け寄り名前を呼んだ。



「秋光っ」



パッと俺を映した黒い小さな目。


その瞬間に浮かんだ安堵の眼差しに泣きたくなった。


駆け寄ってくる姿が迷いなく俺に張り付くと、どれだけその身を外に置いていたのかを伝える冷たさが更に蝕む。




「・・っ・・・、ずっと、外にいたのか?」




柔らかく撫でた頭も髪の毛一本一本が冷やされていて、まさかと思う疑問に肯定を示して秋光が頷く。


良かった・・・・。


帰ってきて・・・・良かった。


心底そう思って、


気がつけばその姿を抱きしめる。


過去に・・・自分がそうされたかった。


そうされていたら・・・・、


俺にもまともな愛情が宿っていて、今こうして四季を失っていなかったかもしれない。




「・・・・まま」




響いた寂しさの塊に静かに涙が頬を伝う。


コレが恐くて、


素直にそれを感じるのが恐くて、


だからこそ秋光を避けていたのに。


秋光の純粋で素直な寂しさは、俺の殺してきた感情を引きずり出す。


単純に、





【寂しい】と。





あの姿が・・・心底恋しい。





言い様のない自分の寂しさを気づきたくなくて感情を殺していたのに。


呆気なくそれを崩すのも愛によってなんだな。


自分の苦痛よりも優先したのは・・・、



秋光に対しての愛情。





四季が守りたかったこの存在を守ることが四季を愛し続ける事なのだろうか。