俺が逃げ出した【寂しい】の表示。
秋光の言い様のない寂しさに気が付いていながら自分の精神の確保を選んだ。
だって、あれは何よりも純粋だから・・・。
大人の様に誤魔化して濁しながら表すんじゃない。
きっと素直に全力でその寂しさを表してくるから。
それに対面したら俺は・・・・。
しばらく堪えるように頭を抱えデスクだけを視界に映し不動になった。
ドクドクと流れる血液を感じるほどの脈拍に何か急かされているようで、不意に時計に視線を走らせたのは気持ちの反映なのか。
示す時間であれから5時間ほどは経っていると気づく。
何を・・・しているだろうか。
あの広い家で、甘えられる存在もなく。
あの家の家主である桐子さんは頻繁に海外に飛ぶ。
今もその姿は遠く異国の地でその力を存分に振るっているのだろう。
そう言う時にあの家に存在するのは数名の信頼置ける昔からの使用人だけになる。
そんな中で・・・あの小さな姿は1人で何をしているのだろうか。
1人・・・・で・・・・。
閃光のように走ったのは・・・・、
鮮明に脳裏に浮かんだのは、
過去の自分。
1人・・・・、
広い屋敷で飛びもしない紙飛行機で遊ぶ姿。
撫でてくれる存在を恋しく思いながら、
永遠に来ないその瞬間に夢を馳せて。
そうして大人になった俺は愛情の欠落した人間。
放っておいたら・・・・秋光も、
俺と同じ道を辿るんだろうか?
四季が大切に思っていたあの存在が俺の様な人間に?
ああ、それは・・・・、
四季が悲しむ事で・・・・・、
俺も望まぬ輪廻だ。



