暴君と魔女








「・・・何でもいいです」


「・・・・そう、いい子ね・・・」



返事を口にしながら管を手から解放すれば、にっこりと微笑んだ桐子さんがゆっくり熱を残しながら俺の手を離した。


だけどその眼にまだ不安を孕んでいるのを隠し切れていない。


女神らしからぬミス。


そんな風にさせるほど俺の身を案じてくれていたのだと理解するのに感情は動かなかった。










仕事は・・・・・



本当に死なないための薬。




効きすぎるが為に副作用も強いというのに



僅かな痛みにも過剰に摂取して、



一瞬でもその記憶の介入を防いでいく。





皮肉にも過去に疎んだ生き方が、病んだ俺に効く一番の催眠剤らしい。





































ギリギリまで、その効果を得ようとオフィスに居座る。


パソコンの青白い光が自分の疲労を与えるのを快楽に思う。


もっともっととその異常な感覚に沈んでいき、もう戻れなくなりそうな限界までくるとタイミングを計ったように携帯が鳴るんだ。


今もそう、まるで読んでいる様になりだしたそれに僅かに眉根を寄せると適当に手を伸ばす。


着信相手も確認せず慣れた調子で応答ボタンを押すと、視線はパソコンに向けたままその声を耳に取り入れた。




“門限が守れないなら取り上げるわよ望・・・・”


「・・・今車に乗ろうとしていーー」


“どうせパソコン画面みながら話してるんでしょう?”


「・・・・キリがいいところまでしたかったので」



肯定の意味合いでため息交じりに返せば、無言で不満を伝えてくる電話先の女神。


だけどそれもいつもの事だと、名残惜しくもパソコンを落として椅子の背もたれに寄りかかる。


ぐるりと向きを変えれば高層に位置するそこから一望できる夜景を無感情で見つめた。


今更綺麗だとも思わない、ただ思うのは明かりがついている数だけ働いている人間がいるのだとぼんやり思う。


羨ましい。


そう結論付けた瞬間に不意に入りこむ痛み。



“・・・・秋光、今日も待ってたわよ”



響いた声に毒でもあったようにじわじわと体を蝕んで、キリキリと痛む体の内面に冷や汗が出る。


そんな俺を知ってか知らずか女神の声は俺のその痛みに追い打ちをかけてきた。