暴君と魔女






「望、」


「・・・・仕事しかないんです」




感情もなく、それでもまっすぐに見つめ返して口にした言葉に、桐子さんの眉根が僅かに寄る。


こうして俺なんかに憐れんでくれるのはありがたいことなんだろうけれど。


動かない感情にすでに落胆すらしない。


人間としての欠落。


まだ・・・悲嘆していた前の自分の方がマシな人間だったのだと感じるほど。




四季と一緒に失ったのは僅かに持ち得ていた自分の人間らしさだったんだ。


これも呪い。





「・・・・・分かった。・・・・仕事しなさい」





いつの間にか布団に落ちていた視線を、言葉の意味を確かめるようにあげていけば絡む女神の鋭い双眸の光り。


それでも混じる不安を見落とさず、どこか賭け事に興じているような迷いも感じる。


俺を生かすか殺すか、


そんな迷いなのだろうか?


自分の言った言葉でどう展開するかこの女神ですら読めないのだとどこかで思った。


そして、残酷な事を返すとすれば・・・。


申し訳ないが・・・


あなたの力では俺は変えられない。




元々、一瞬でも俺を変えたあの時間が奇跡に近かったというのに、そうそう2度も同じような奇跡が起こる筈がない。


あの奇跡以上の時間や存在なんて・・・。




「仕事していいわ。それがあなたの生きる気力になるのならしなさい」


「・・・・・なら、」




了承を得たと再度掴んでいた管を握りしめると、言葉とは逆にその手を止める桐子さん。


何故?


そんな風に視線を返せば返事は言葉で返される。



「条件よ。退院は許可が出たら、退院したらウチに住む事、その2つを守れるなら仕事させてあげる」


「・・・・おかしなことを。そもそも俺の会社だ、それに・・・あの親父が許すと?」


「・・・・・あんまり私を舐めないでね。こんな家系のしきたりを覆す事なんて本気になれば容易い事なのよ」




ここにきて彼女らしくニヤリと微笑む表情に、言う事を聞かなければ全て覆して立場を奪うという響きが隠されている。


いや、隠されていないか。


大っぴらに脅された条件に無表情で考え込んで、それでも深くまで考える事もすでに面倒だと頷いた。