暴君と魔女






「・・・・望、大丈夫?」



不動になっていた俺に躊躇いながら声をかけてきた桐子さんがそっと肩に手を置いて。


それに反応して体を起こす。


きつく閉じていた目を開ければぼやけた視界にその姿を捉え力なく笑った。



「・・・・なんて・・・、間抜けだ。何も理解していなかったくせに・・・手に入れたと過信して」


「望・・・」


「与えられるばかりで・・・・・俺は何一つあいつに与えていなかった・・・・・」



口ばかり、


感情のままに自分の欲だけを埋めるように四季を求めて。


なんて自分勝手な愛しかただろうか。


四季の相手を思いやる愛し方とは違いすぎて、そんな俺と四季が隣り合う愛し方など不可能だったのだと思い知る。


こうして姿を消した意図すらも分からない俺には四季の傍にいる資格などないと言われたようで。


もし・・・・運命をつかさどる女神がいるというのなら。


きっと、俺は四季に相応しくないとその繋がりを断ち切ったのだろう。


そう答えを打ち出した瞬間の無気力。


全てにおいてどうでもよくなった。


恐怖も畏怖もない。


自分をどう利用されてもいい。


死ぬよりも深い死を自分に感じ、ただ空(くう)を見つめて不動になった。



「望・・・」



多分、桐子さんが名前を呼んだ。


そんな感覚。


でももう何も感情も湧かず、胃の痛みすら感じない。


なのに頬を一筋涙が伝い。


涙を流す事すらそれが最後となり。


産まれ、歩き出そうと成長し始めていた自分の死。






「・・・・・・仕事・・・」


「えっ?」


「・・・・・この点滴、どうやったら外せますかね?」



腕に鬱陶しく絡みついている管を雑に掴んで取り外そうとすれば、焦った様子の桐子さんが俺の腕を掴みまっすぐに視線を絡めてくる。


鋭く、真剣なまなざし。


心底俺に対しての心配の色を浮かべる。


それなのに・・・・、


すみません、







もう、




人間らしい感情を持ち始めていた俺は死んだらしいんです。