暴君と魔女






「・・・火事だったそうよ。マンションの、下の階からの出火で火は消し止められたけど逃げ遅れて大量に煙を吸ったらしいの」



逃げ遅れて。


その言葉で思いだす、四季の想い人の身体的な欠点。


動けないんだったな。


車椅子で過ごしていたと言っていた。


火事という人の混乱が入り混じるなかで自分の身の安全を確保するのに必死な者達が、はたして手を差し伸べるだろうか?


きっと・・・いなかったのだろう。


そうして、1人息絶えて・・・・、変わり果てた状態で四季と対面した?


泣いて父親を求める秋光を『引き離して』、読める筈だった恋人の未来を見落として、


ああ、そうか・・・・。


きっと・・・。




恋人の幸せを見落として、



秋光から幸せを引き離した。







そう思ったんだろう?


それが四季に焼きついた戒めだったんだ。


不意に想像してしまったその瞬間。


絶望した四季の姿を想像した瞬間に言い様のない嫌悪感で蹲る。





馬鹿女・・・・。


やっぱり馬鹿で、馬鹿で・・・・切なくなる。


違う・・・本当に馬鹿なのは・・・・俺だ。






あの言動に翻弄されて、


あの笑顔に惑わされて、


あの声に救われた。




あれが四季の本当の姿だと思っていた。


穏やかに過ごす、波紋すらない水面の様だと。


だから時々激しく波風立つ姿に戸惑い、困惑した。


異常だと、


四季らしくないとそう思ったのに。


その姿が押し隠していた本当の四季の感情で弱みだったのだと今更理解する。




決して消えない絶望と戒め。


それは・・・・俺に巻きついていた呪い以上に重く暗く辛い鎖だったんじゃないのか?


それなのに自分の重みをひた隠して俺の重みを緩和し続けて。




結局・・・・。









俺は・・・・、




四季の事を何も理解していなかったんだ。