暴君と魔女






「・・・・見えて・・いたんですね」



呟いた言葉足らずな一言なのに理解した桐子さんが肯定するように口の端をあげる。


肯定するという事はこの言い方による予想も当たっているんだろう。


見えていた。


それでも・・・・、見えなくなっていた。


それが正解だろうか?


少しの間の沈黙に成り立つ仮説。


それの答え合わせをするように響き始める桐子さんの声。



「見えていたんですって、はっきりと明確に。過去も、少し先に起きうる事も」


「でも・・・一緒にいる内に見えなくなった?」


「・・・・どんどん、薄れていくらしいのよ。それでも些細なことは読みとれているから他の些細な読み落としには意識しなかったのね」



些細な。


きっと、物にぶつかるとかお茶を零すとか。


そんな日常でよくある事への先見だと思い納得する。


そう、見落としたところで生きる上で微々たる衝撃にしか過ぎない、下手したら忘れてしまうような出来事。


なのに・・・、その中にその大きな未来を混ぜ込んでしまったんだな。



「・・・・・彼の子・・秋光?を幼稚園に送りに行ってたんですって四季ちゃん」



語り始めた桐子さんの声のトーンで今から話すのがその見落とした部分なのだと嫌でも分かる。


ああ、胃がキリキリとする。


無意識にその部分を手で押さえ、軽い気持ちでは聞けない話に意識を戻す。



「何でかね、その日に限って秋光が離れたがらなかったんですって。泣いてすがりつく姿を抱き上げて宥めて・・・、四季ちゃんの言い方だと・・ね、引き離して連れて行ったらしいの」



痛い・・・・。


濁しながら・・・、躊躇いながら語る桐子さんも、聞いていた時にこの感覚を味わった?


一瞬、ほんの一瞬思った事。


この話を・・・・四季本人の口から聞かなくて良かったという事。


きっと、これを語る四季を俺はまともに受け止められなかっただろうと想像する。


引き離した。


その言葉に、四季の秋光への罪悪感が嫌ってほど伝わって、いたたまれなくなる。


そして理解するあの秋光に対しての愛情の重み。


本当に愛していたとしても、半分以上は懺悔の重みだったのだろうか?