しっかり重なった唇を余韻たっぷりにゆっくり離すと不満を漏らす。



「・・・・いちいち俺を煽ってくるな」


「そ、そんな望様の複雑なツボなんて存じません。それより・・・、さっきのお言葉に責任を持ってください」


「あ?」



さっきの言葉?と、思考を巡らせ、そう言えば指輪の話をしていたな。なんて考えが至ったタイミングに響く四季の声。



「私がこのお家に相応しくないという事をご理解ください」



四季の眼がいたって真面目にその言葉を告げ、自分にその資格はないと手を引こうとするのを掴み直す。


その事か。


俺が全て忘れて口にすると思っていたのか?




「家は・・・気にするな」


「無理です」


「なんとか説得する。・・・ダメなら、お前と駆け落ちしてもいい」


「そんな事・・・」


「今更・・・親父と対峙するのも、地位を捨てるのも。

・・・・・・・お前を手放すより容易い事だ」




そう・・・容易い。


不安も恐怖もない。


ただ・・・・、その手に抱えきれるほどの幸せだけで充分だと初めて思う。


こう言う事だろ?



あの絵本の言う愛って物も・・・・。



俺の決意に喜んでいいのか迷う様な四季の姿に、小さく笑って額に口付ける。


唇よりそっちの方が誓って口にした感じがしての行動。


そっと触れて、しっかり熱と感情を残すと離れ四季の顔を覗き込み
言葉を落とす。




「俺の呪いは・・・・お前にしか解けない」


「望様・・・・・」


「名前で・・・・呼べ・・・・」




もう・・・上司でも、主人でもない。


様付けは必要ないとそっと指先で唇を触れてその呼び方を懇願した。





「のぞ・・・む・・・・・」





控えめに、躊躇いながら響いた声と、言った直後に照れくさそうに微笑む四季に鳥肌が立ち。


歓喜に満ちた感情のままそっと顔を近づけ口付けた。


重なって、軽く啄んで、更に深まりそうな瞬間。


掴まれた腕に驚いて口を離す。




「・・・四季?」



名前を呼んで確認した姿に不動になる。


どう捉えていいのか分からないそれに、戸惑いだけの響きで再度名前を呼んだ。