暴君と魔女






それはそんなに悲しい事なんだろうか?


例えば、元々備わっていた視覚や聴覚を失う感覚?


もしそうだというのなら少し不憫だと胸が痛む。


それでもそんな事に追い詰めてでも四季が愛おしくて、どうしても四季からの愛を得たかった。


すすり泣く声が廊下に響いて、窓から入りこむ月明かりを一瞬見上げた。


魔女の追悼。


ただの女になってしまった四季の心はもう分かる。


痛々しい姿も、その力を失ってしまった理由もそうなんだろう?




「四季・・・・・言え・・・・」



やっと響かせた声は切望の響き。


もう・・・何も失う物がない今・・・・、


阻むものは何もないだろう?


俺の声にようやくその手を外した四季が涙で濡れる顔を向けてきて、じっと見つめた後にその言葉を静かに落とした。



「恐いです・・・・」



「・・・・・何が?」



「この恐怖は・・・・望様には理解できないです」



言われて胸が締め付けられる。


ここにきてまだ拒絶される反応にキリキリと限界の糸が張りつめてくる。


もう・・・いい。


もうお前の拒絶は聞きたくない。


そんな感情で思わず寄った眉根と下がった眉尻に、次の言葉を吐きだそうと動き始めた四季の唇に思わず身構えた。









「もうっ・・・・望様をお守りする先見が出来ない・・・・・」








凛と響く心地いい声音。


涙で震えているのに感じるのは恐怖よりも・・・。


響いた言葉が自分のいい様に解釈していいのか理解できず、ただ言葉を発した四季を見降ろせば。


未だ悲痛な表情で見上げる四季が更に眉尻を下げるとその眼から涙を零した。




「望様が・・・・・好きなんです・・・・」


「・・・四季?」


「何よりも・・・誰よりも愛しているんです・・・・・、だから、お守りしたかった・・・・・


ずっと傍にいる為に・・・その姿を失う事がない様にお守りしたかった・・・・」




言って・・・子供の様に涙を流す四季にただ呆然とした。


違う・・・・言われた言葉を反芻して、言い様のない歓喜に動けなかったんだ。