暴君と魔女





ずっと音を発しない口が僅かに隙間を作ったまま不動になり、素直に揺れ動くグレーが俺を見上げる。


歓喜とも悲哀とも分からない表情で見上げる四季はいつもの本来の四季だと感じてしまった。


それがどこか安堵して・・・小さく歓喜して、頬に添わせていた手をより密着させるとゆっくりと屈む。



覗き込むように顔を近づけて、至近距離からグレーを確認するとその距離を更に縮めた。


唇にかかるお互いの息。


ドクンと強く心臓が跳ねて軽くお互いの唇が掠めた。




「・・・っ・・・・・」




直後の衝撃。


ドンッと胸を押し返されて、ばさりと床に落ちる白い花束と遅れて散ったその花びら。


対して驚かなかったのは半分は予想していたからだろうか。


だから一瞬の衝撃の後に冷静に四季を捉えれば、とても冷静を作りあげられなかった四季の複雑な表情。


焦っているのか怒っているのか悲しんでいるのか。


多分・・・全てだ。



「・・っ・・・いりません。そんな高価な物・・・・私のには不相応です」


「・・・・俺にとっては・・・・お前は何よりも価値が高いぞ」



落ちた花束を拾い上げ、その花を整えながら自らが貶した価値を称賛すると、これもまた不必要だと首を横に振って後退する姿。


頑な・・・。


そこまでする理由は俺は知り得ないけれど。



「四季・・・・、」


「出てって下さい」


「俺は・・・・」


「っ・・・」



ふわり舞う白い衣裳。


はためかせ俺の前から逃げ出し駆け出す姿に一瞬呆気に取られ、そしてすぐに追いかけ駆け出した。


必死で滑稽でなんて醜態。


あの女と同じような事をしている自分。


拒んで突き放して、とっくに振られているのに諦めずに追いかける。


元より運動神経は誇れる方だけども、こうして仕事に生きるようになればそんなに使用する事のなかった筋肉。


思ったより足の速い四季が逃げる姿を追いかけて、軽く息切れする体に気合を入れると全力疾走に近い状態で駆け出した。


脱兎。


そんな言葉が似合う逃げる白い姿。


俊敏で翻弄して、それでもその姿に腕を伸ばして熱を掴んだ。


瞬間に・・・、体力の限界。


ぐらりバランスを崩し2人して床に沈む感覚に、咄嗟に四季の頭の下に手を滑り込ませた。