暴君と魔女







逃げ出したように自分のテリトリーに戻ったつもりであろう四季が、不意に足を止め俺の張った罠に不動になった。


その後ろ姿に無言で近づき背後に立つと同じようにそれを見つめる。



「・・・っ・・・綺麗ですね」


「・・・やる」


「・・・ふ、ふふ、本当におかしな望様。ああ、・・・・分かりました。朝の先見の成功報酬でしょうか?」



そう言って、視界に捉えていたそれを持ちあげにっこりと微笑む姿に思わず見惚れた。


嘘くさい笑顔は抜きにしても。


やはり四季にはこの色だった。


ふわりと香る匂いも柔らかく品がある。


見なれたナイトウェアの白とも調和して、思わず白い頬に自分の手を添えた。


少し驚きに揺れた四季のグレー。


この眼は・・・いつだって正直で好きだ。



「望様?」


「・・・・・これは、お前への贈り物だ」


「・・っ・・・、」


「成功報酬でもない。上司としてじゃないーー」


「望様・・・」


「単なる・・・・俺としてからの女としてのお前への贈り物だ」




崩壊寸前。


そんな姿の四季が必死に立てなおそうとしているのを無言の内に感じる。


その眼は動揺に揺らいでいるし、なんとか言葉を返そうとしている唇が震える。


もう、分かってしまった。


気がついてしまった。


四季は・・・・俺が求める感情で俺を見ていると。




「・・・・絵本に則って・・・赤い薔薇にしようかと思ったんだが。・・・・・・どうしてもお前には似合わない気がしてな」



そう告げて、四季が手にしている物に指先で柔らかく触れる。


白く滑らかな手触りの花びらを幾重にも重ねて広がるその姿と、花言葉が見事四季に似合うと思う。



「純潔、清純、無邪気、尊敬・・・・、俺がお前に思うままの意味だ・・・・」



濁すことなくその言葉を落とし、薔薇から四季の顔に視線を移すと
酷く動揺するその表情。


揺れるグレーアイをまっすぐに見つめると心から思ってしまった。


この姿が愛おしいと。




「・・・・・魔女のお前なんていらない、利益なんて必要ない。

ただ・・・、傍にいてほしいだけだ」




響いたのは俺の声と四季の飲み込んだ息の音。