子守唄が聞こえる。
こっちの眠気まで誘いそうな、いつだって変わる事のない音色。
どんなに表面を作り上げても、この唄声だけは変りようがない。
四季の心そのものの様で扉の前で聞き惚れてしまった。
いつものように帰宅して、僅かな躊躇いを抱きながらも四季の部屋に足を向けた。
ノックしても反応のない部屋に入りこめば明かりはついていれど姿は無く。
時計を確認しその理由を理解したとほぼ同時に耳に微かに響く旋律。
それに引き寄せられ寝室への扉に寄りかかり耳を澄ました。
時間的に秋光の就寝時間だと気がついて、中で四季が子守唄をうたっているのだと気がつき口の端が上がる。
歌いながら秋光には嘘いつわりのない頬笑みを浮かべているのだろうと複雑な感情を抱くのに、すぐに掻き消すように歌声に集中した。
しばらく続く旋律に足の疲れも感じずにその場所で不動になっていたけれど、静かに消えゆく声音にそっと扉から離れてその姿を待つ。
ドアノブが静かに動き、それを視線でとらえてピンと緊張が走るのを感じた。
ゆっくりと開く扉がその緊張を待ってくれず、ふわり現れた白い姿に心臓が変な跳ね方をする。
「・・っ・・・・・望さま・・・」
響く言葉に切ないほど胸が疼いて、
ああ、単純だ。
好きだと単純に思ってしまった。
声を響かせた四季が一瞬驚きを見せ、すぐに笑みを浮かべて俺を見つめる。
作り笑いの表情で。
「驚きました。・・・・おかえりだったのですね」
「・・・ただいま」
取りとめのない言葉に即座に返事を返せば再び驚きを表す四季の表情。
そりゃあそうだ。
こんな風に素直に挨拶を返す俺でもない。
おかえりの言葉に素直に「ただいま」を返せば調子を乱された四季が僅かに怯む。
それでもすっと切りかえ笑みを作り上げる姿には感服する。
「どうされました?望様が素直だと不気味ですよぉ~?」
と、クスクス笑っていつもの様にふるまう四季が俺の横をすり抜けキッチンに歩きだす。
だけど・・・・そっちにはもう罠を張っている。



