暴君と魔女






「本当に驚くわ。そんなにあの子が欲しいの?」


「・・・・・あれは、俺のものです。俺が見つけて俺が買った」



躊躇うことなく自分の所有物だとさらりと告げれば、珍しく悪戯な笑みもない視線が向けられて。


それに対して疑問を同じように視線で返す。




「・・・・・・それは、大人の仕事の上での関係ね。需要と供給の整ったバランスのとれた確かな関係」


「そうですよ?だから、契約がある内はあれは俺のものだ」


「・・・・・確かに、正論だわ。あの子はあなたのものよ。・・・・恋とは関係のない仕事の面ではね」



ふぅっと息を吐き長い髪をさらりと後ろに流す姿に眉根を寄せて、その意味するところの説明を無言で要求する。


桐子さんの視線が当てもなくオフィスを走って、その間に言葉をまとめていたのか視線が戻った時にその言葉が返された。




「望、人の感情は一型だけじゃないのよ。仕事の様に枠があって、割り切って動くものじゃない」


「・・・好きか嫌いかの問題でしょう?」


「・・・・・本当、困った子。需要と供給で動くのは仕事だけよ。恋や愛では通用しない。自分が愛した方法で、相手が同じように返してくれるとは限らないのよ」



この人は気が付いているんだろうか?


その言葉を言いながら、自分が悲痛な頬笑みを浮かべている事を。


それでも上手く理解できずに怪訝な表情を浮かべる俺に困ったように柔らかく微笑むと、ようやく四季についての事を口にする。



「・・・・本当は、言えないの。あの子との約束だから」


「・・・・そうでしょうね。四季は絶対に俺には本音を話さない」


「・・・・あなたの愛も相当不完全で危ういものだけど・・・・、四季ちゃんのそれも不完全な上に頑なね」



僅かに動く表情と心。


単純に反応したのは【四季の愛】とかいう陳腐な言葉。


陳腐だと馬鹿にしている癖に、それに見事反応する自分はそれにのめり込んでいるのだと再認した。


食いつく様に桐子さんを見つめ、早く早くと続きを求める心が胸の内で煩く煩わしい。


そんな俺を知ってか知らずか俺と四季の事情を把握し、それこそ運命を握る様な女神が言葉を探す。