暴君と魔女







そしてチラリと思いだす存在に、躊躇いつつももしかしたらと思いが走る。


それでも抵抗のあるそれに縋る様な自分を認めたくなくて、ポケットに手を突っこんだまま指先に携帯を触れさせしばらく固まった。


勝ったのは・・・・プライドより執着。


どうしても取り戻したいという惨めで必死なただの男の自分。


携帯を握りしめこちらからは滅多にかける事のない名前の番号を拾い上げ、意を決してコールし耳に不本意な無機質の音を響かせる。


何回かでそれは人の声に変わり、電話の向こうで至極愉快そうな女の声が俺を笑った。



“昨日の内に感謝の言葉が来るかと思ったけど?”


「クレームの間違いでしょ?むしろ優秀な弁護士は手駒にいますか?いつ訴えられてもいい様にご用意ください」


“やだぁ、感謝されても恨まれる覚えないわよぉ。シンデレラに魔法をかけに行っただけなのに”



「余計なお世話です。ウチの灰かぶりはその眼のグレーだけで充分綺麗ですから」




はっきり言葉遊びを混ぜながら不満を返せば、パタリと相手の言葉が途切れる。


珍しく黙ったそれに怪訝な表情を浮かべるとようやく響く僅かに驚き孕む女神の声。




“驚いた。あなたの口からさらっと純粋に女の子を褒める言葉がでるなんて”




言われてしまった。と頭を抱え、うっかり感情的な想いを口にしたと後悔する。


こっちがヘコめば対照的に浮上する相手が嬉々とした声を響かせ俺の弱みを刺激し始めた。



“やっと、恋愛できるまで成長した?”


「馬鹿にしているんですか?」


“そんなつもりないわよ。素直な称賛”


「あなたが言うと全部嫌味に聞こえるんですが」



嫌悪を交えて口にした言葉に笑う要素はあっただろうか?


それでも可笑しそうにクスクス笑う叔母が妙に穏やかな口調でその声を響かせてきた。