暴君と魔女






熱い薄紅の液体をごくりと飲み込みながら見つめると、ふんわり微笑んだ後に視線を外す四季。


何だろう?


何か・・・変だ。


いつも通りの四季だというのに・・・・どこか掴めない俺の知らない女の様だ。


焦燥感。


思わす手を伸ばし、細く柔らかい髪に指を絡ませる。


昨日の事もあり酷く躊躇いながらした行動に、四季の視線がゆっくり移り緊張が走った瞬間に返される頬笑み。




「・・・・望様?さっきからどうなさいました?」




耳に入り込む声音が不協和音の様に響いて目が回る。


好ましいと思っていた声が柔らかくその言葉を響かせ、その顔には笑みを携えるというのに心が伴わない。


こうして触れてもどこか幻を掴まされている様に手ごたえがない感覚に、限界だと持っていたカップを落として四季の体をキッチンに押し付けその眼を覗き込んだ。


透き通るようなグレーの双眸が驚きすら浮かべずに俺を射抜く。


なのに未だ口元にある笑みに眉根を寄せると、




「・・・今日は・・・どこかおかしいですよ?望様」


「それは・・・・俺に向けるべき言葉か?」


「・・・・おっしゃっているいる意味が分かりません。・・・ああ、ストレスがたまっていらっしゃるのでは?今リラックス効果のあるーー」


「黙れーーー」




その・・・心の無い笑みが何より不愉快だ。


追い詰めても態度を変えない四季に苛立ちが募り、昨日からの不満がここにきて限界を迎える。


落として派手に砕けたカップと薄紅の紅茶がじわじわと床に広がり、鼻を掠めるパンケーキの甘い匂い。


いつもと同じでいつもと違う。


アンバランスさに酔って吐きそうだ。




「四季・・・・」


「・・・・・・ああ、今日は、・・・仕事のいい結果が聞けそうですよ」


「・・・・・読めとは言ってない」


「何故です?・・・・・私は望様の利益の為に先見するのを目的に雇われているのですよ?」




つらつらと笑顔で言い切った言葉に激情し、黙れというように足元を強く蹴ると。


一瞬ビクリと身を震わせた四季がそれでも笑顔を崩さずに見つめ上げてくる。


何でだ・・・・。


今更・・・・何故拒む?