暴君と魔女





住み慣れた自宅の玄関をくぐり、すぐに感じた違和感に足を止められる。


だけども微弱なその違和感に根本が掴めずしばらく考え込み、答えが出なさそうなそれに諦めて足を進めた。


酷く疲れたとじりじり痛む腕に舌打ちをし、その扉の前で再度自分から匂いがしないか確認してしまう。


なんか・・・・・、浮気後の夫の気分なのは何でだ?


まるで浮気の痕跡を気にしながら帰宅した様な自分の姿に複雑な思いで扉をノックし、返事よりも早く扉をくぐった。


そしてすぐにさっきの違和感を忘れるほどの違和感。



「・・・・・四季?」



方眉を下げ怪訝に部屋を見渡しても、明かりばかりが煌々としているだけでその姿を捉えられず。


それでもそんなに焦らないのはついさっきまでこの場にいたであろう痕跡。


テーブルの上の紅茶は温かいし、まず明かりがついている段階で四季はこの部屋にはいるであろう事。


だからこそ余計に姿が見えない事が疑問で、その姿を探して隣の寝室まで足を運ぶ。


扉を開けば大きなベッドで1人すでに眠っている秋光の姿。


その事に気を使いながら半開きの扉から中に入り込むと、カチャリと小さく響いた音で視線を移した。


音の元となるバルコニーへの硝子戸の開閉音。


視線を走らせた時にひらりと外に逃げる姿に息を吐く。


四季・・・・・、今度は何の遊びだ?


何故か俺から隠れて逃げている様な反応に、あえてその硝子戸からは追わず。


居住空間になっている明るい部屋に戻りそちら側からの硝子戸をくぐると寝室のバルコニー側に歩いていく。


寝室を出る時にそっちの硝子戸は鍵をいかけてきたから逃げ場はないと四季を探し角を曲がると、



「っ・・・、ま、待ってください」



響いた声が酷く焦りを見せて丁度月明かりを遮る壁に張り付いているらしい四季を捉えて眉根を寄せる。


その顔や姿は見事影に包まれていてよくは見えない。


だけども特に体調が悪いとかではなさそうな姿に安心すると、四季の忠告は流し近づいていく。