暴君と魔女







異様な至近距離。


いや、今までは普通にその距離を繰り返していたのだから、彼女にとっては自然で当たり前の距離感なんだろう。


でも・・・・、


不快だ・・・・・。


見上げてくるあからさまな誘惑の表情も、化粧も、この匂いも。


全てが作り物で気持ちが悪い。


「触るな」と言えたらどれだけ楽だろうか。


そんな思考を頭に、それこそこっちも作り上げた笑顔で見降ろせば、満足そうに微笑む女の姿に呆れてしまう。



「会いたかったです。どうして連絡に応じて下さらなかったのですか?」



いかにも寂しかったという響きを乗せて吐き出された言葉に嘲笑を漏らさなくて良かった。



「・・・色々と仕事が立て込んでいたので・・・今も仕事に追われている現状なんですよ」



暗に帰れと示しているのに「大変ですね」と全く的外れな返事を返し俺を労わる様に見上げる姿。


勘弁してくれ。


言っている意味が分かってないのか?


どうしたものかと、多分表情に出してしまったのだろう。


それを見逃さず、こういう時ばかり勘の鋭い女の表情がいとも簡単に崩れ、声にもその不機嫌が表される。



「望さん、私の来訪はご迷惑だったのでしょうか?」


「いえ、その姿を見せて頂けたのは嬉しいの一言ですが。・・・・ただ、就業時間外であればもっと嬉しかったかと」


「つまりはお邪魔だったのですね」



明らかに不満を抱いた彼女が感情のままにプライドが傷ついたとアピールしてきて、だんだんオブラードに包んだ返事を返すのにも疲れがさす。


自分のした非常識な押しかけを棚に上げて、この女は何を自分勝手な事を言っている?


面倒くさい。


そう結論づいた瞬間に鼻につく香水の匂いで、完全に嫌悪の言葉が漏れた。



「臭いな・・・・」


「・・・はい?」



言って、すぐに彼女の視線が攻撃的に突き刺さる。


だけど特に後悔もなく、「ああ、言ってしまったな」程度の失態を感じると、あとはもう開き直るだけ。




「申し訳ないが・・・・、仕事の邪魔だ。その非常識で作りものの容姿も・・・・・・その公害でしかないきつい香水匂いも」