暴君と魔女




馬鹿みたいにしばらく不動で考え込んでいれば、同じように腕の中で不動だった四季がもぞりと小さく動き出し、スッとその顔を上げるとグレーに俺を映し込む。


それをまだ答えの見つからない複雑な心情で見つめ返せば、



「・・・・・・望様」



そうだ、こいつは魔女だった。



「・・・・・・もしかして、なにか反省会されてますか?」


「嫌な女だな。どうせ隠したところでお前には全部見えているくせに」



舌打ちでそれを肯定する様な言葉を嫌みで武装して弾きだしたのに。


返されたのは言葉でなく、どこか複雑な表情の笑み。


嫌味に対しての苦笑いなのかと、何か引っかかる内心を口にしようか迷ってしまう。


だけどそれすらも言葉を奪う様な四季の雰囲気に、疑惑の言葉はごくりと飲み込み別の疑問に差し替えていく。



「・・・・体は・・・平気か?」


「・・・・・・少しだけ・・・痛いですけど」


「まぁ、まだキツイもんなおまーーー」



さらりと感想を言葉にすれば普段はおっとりしている四季がすばやい動きを見せ俺の口を華奢な手で塞いで言葉を遮った。


しかし・・・ほとんど言い終わっていたんだが。


驚いて捉えた姿は頬を怒りでなのか羞恥でなのか紅潮させ、僅かに眉根を寄せた四季の姿。



「・・・・・・望様、・・・セクハラです」


「あっ?セクハラって・・・お前、」



セクハラ以上の関係を終えた直後に言うセリフじゃないだろ。



「大体・・・・ずっと疑問だったんだが、婚約までしておいてその相手とは何で何も関係がなかったんだ?」



呆れて勢いのままに聞いたのは俺の誤算。


ずっと今まで保留にしていた四季の婚約の話に何の警戒も置かずに触れてしまえば、目の前のグレーが驚きに染まってから複雑に揺れる。


眉間から皺が消え逆に下がる眉尻に、決して軽い気持ちで聞いていいもので無かったと理解してしまった。



少し開きかけていた四季の口がしっかりと閉じ、何か感情を飲み込むように唾を飲んで。


沈黙が耳に痛くなり、耐え切れなくなったところで自分の口を開き始めた。





「彼は・・・子供を残す事が出来ない人でしたから」





響いたのは四季の声。


開きかけた俺の口から音が発せられるより早く返された四季の返答に、俺は疑問をぶつけていいんだろうか?


そんな疑問もどうやら察しているらしい四季がふわりと不完全な笑顔を作り上げると言葉の補足を告げてくる。