立ち上がりヤケに浮かれた調子の四季の背後に立つと、四季の手がそこにあった蜂蜜のポットに伸びたのに恐怖し手首を掴んだ。


ピタリ柔らかい旋律が止み、小動物の様にクリッとした目が俺に疑問の眼差しで顔を捻り見上げてくる。


ちっ・・・、可愛いんだよ。



「望様?」


「・・・譲歩しろ」


「はぁ・・・、譲歩?」


「パンケーキを食べないとは言わん。だけど蜂蜜の類は必要ないと学習してくれ」



その程度なら呑めるだろうと、呆れ半分にげんなりして四季の手からポットを手放す様に促していく。



「ふふっ、心得ました。・・・盛り付けはいかがなさいますか?また・・・一口大にお切りいたしますか?」



その言い方に若干の悪戯めいた響きを見逃さず、多分お坊っちゃまだと濁しながらからかっているのだと思う。


軽く舌打ちすれば、肯定のようにクスクス声を零す無邪気さに機嫌の良さを感じ取った。


そう、先見をする直前は酷く緊張感が高い四季。


なのに終わってしまえばその反動となるのか偉く上機嫌で柔和な姿を俺に披露し翻弄する。


あの緊張感は何だ?と疑問に思うのに、直後の明るさにかき消されその疑問は常に宙ぶらりんだ。


今この時もその迷いを踏みかけて、口にすべきかと唇を動かした瞬間にはの指先の違和感。


トロリゆっくりと流れるのは琥珀色の蜂蜜で、ポットの口から僅かに零れ出したそれが容器の縁などに沿って、結果俺の指先にまで及んだらしい。


指の腹を伝う何とも言い難い生ぬるく絡みつく余韻を残すそれを、近くにあったタオルで拭き取ろうかと逆の手を伸ばし始めた。


瞬間、タオルを掴むより早く与えられたのは絡みつく四季の指先からの熱。


次いで戸惑う暇もなく蜂蜜を舐め取る舌先の感触。


熱い舌と柔らかい唇の感触を火種に一気に熱を上げる身体は正直だ。


そして腹が立つのが、、


こいつのこの行動は決して計算したものでない天然さがなせる技だという事。


だから余計に反応して惹かれてしまうというのに。



「・・・甘いけれど、・・・とても質のいい蜂蜜だというのに、

・・・お食べにならないのは勿体無いですね、栄養も高いし不眠症にも効くから望様には最適なのですよ?」