「ーーーーこんなところか」
一通り書類に対しての確認事項を視線で追って、落ち度がないと自分の横にバサリと放った。
「いつもの事ながら狂いがないな」
賛辞にも近い言葉でその能力を発揮した四季を振り返ると、酷使したという感じに目頭を指の先で抑えグレーを目蓋で塞ぐ姿。
またか・・・、
「四季、」
思わず名前を響かせると、パッとその目を開き俺を捉えてフワリと微笑むいつもの姿。
どうされました?
そんな風に切り返している様にも見え、懸念して浮かんだ言葉は音になる事なく摘み取られる。
「いや、明日も頼む」
「はい、頑張りますよ!私と秋光が美味しい物を食べる為ならズルのお手伝いも!」
「おい・・・、ズルとか言うんじゃねぇよ。運も実力の内だろ。
俺にはお前の様に先見が出来る女を手にする幸運があっただけの話だ」
ニッと微笑み強運を語り、己の当然の星回りだと驕ってみせる。
四季の事だから呆れた声で非難するものかと、身構えはせずとも予測していた。
「・・・もちろん。望様には輝かしい未来を垣間見せてさしあげますとも」
らしくない四季のいつもの笑み。
違和感を覚える従順さに疑いをかけ探る視線を向けてみても、グレーは特に動揺に揺れるでもなく、逆に無邪気に姿を変える。
「あっ、望さま!お腹空かれてますよね!?」
「『よね』?断定かよ」
「パンケーキを焼いておいたのです」
「いらん!お前はどうして学習能力がないんだよ!?」
「失礼な、きちんと学習して分量間違いはなくなりまーー」
「食べたくない。と、学習しろ」
食べたくない。
その響きの瞬間にはまるで聞こえない様に白い裾をはためかせ俺の隣から歩き去る姿。
微かに見えた口元が悪戯に笑っていた様に感じて舌打ちをする。
つまり、食べない。という意思は学習以前の問題で受け付けないという事か。
キッチンに立つ後ろ姿を見つめ、何か作業する度にチラチラと覗く斜め後ろからの横顔。
楽しげに表情に笑みを浮かべていた四季がとうとう旋律でもそれを示して柔らかい音を奏でるのに見事惹かれた。



