ニッと口の端をあげ、今この瞬間まで彼女がしていた笑みで勝ち誇る。


一瞬、その勝機を奪われ呆気に取られた姿が納得した様に小さく笑った。


同じ性格だからこそ、俺の言わんとする事を納得せざるを得ない。



「寵愛・・・が、聞こえがいいのかしら?それとも狂愛?」


「さぁ?・・・いや、どちらも外れですかね」



フッと笑い否定を返す。


それには答えを探る様な視線が向けられ、語る気がない答えに口を閉ざした。


【寵愛】も【狂愛】も【愛】がつくもの。


俺と四季の関係にはそれが存在すると言えないかもしれないと頭の隅で思ってしまった。























「おかえりなさいませ。望様」


「・・・何だ?シナモンか?」



部屋に入るなり香ったそれを、まるで視界に捉える様に空気に視線を泳がせると。


小さく笑った四季がゆっくりとキッチンに向かい、匂いの元であるらしい物をカップに注いでこちらを見る。



「ロイヤルミルクティーにシナモンを落としたんです。集中力が上がるので」


「・・・集中力?」


「だって・・・、今から先見でしょう?うっかり読み間違えようものなら容赦無く追い出す望様でしょうから」


「お前の俺への悪印象はずっと健在なんだろうな?」



皮肉たっぷりに口の端を上げ非難すると、「はい」と小気味いい声で返事をした四季がカップを手にソファーに向かった。


足元ではためく白い裾から時々見える細い足首。


そこをチラリと確認しながら後を追ってソファーに突き進み腰を下ろした。


座って一息つく。


隣を振り向けば四季がカップに口づけシナモン香る中身をゴクリと飲み込む。


長く、瞬きすれば音がなりそうな睫毛を思わず見つめ、直ぐに思い出した様に手にしていた書類を差し出した。



「・・・今日の分だ」



ピンと・・・、


空気が張り詰めた気がする。


四季のグレーが揺れ動きながらそれを受け取り、確かめる様にゆっくりと視線が走ってから俺を見つめる。


俺を見ている様で、どこか遠くを見る視線。


目を細めたりはっきりとその大きさを示してきたり。


その都度動く睫毛がグレーにかかる瞬間が好きだと感じる。


そして艶やかな薄紅の唇が響かせる俺を導く綺麗な声音も。